論理と感情
元CAの山本麻美さんという方は、航空会社で安全教育を担当した経験から「子どもにマスクをさせることのリスク」について啓発をされている。(子どものマスクヒヤリハットアンケート等)
その山本さんに「自分の子どものことしか考えていないのでは?」という批判的なコメントが来て、そのコメント全文とそれに対する山本さんの返信を掲載している。
「自分の子どものことしか考えていないように伝わっていた」と反省しつつ、相手の考え方を否定することなく真摯に答えている山本さんの姿勢も、お二人の文章も大変考えさせられるのだが、何よりも「感染対策が重要と考える人と、対策の弊害について発信する人の噛み合わないやりとりの特徴」が凝縮されているという意味で、お二人のやりとり自体がこの騒動を考える貴重な資料となっている。
以前のブログで、私が新興宗教の3世信者から抜け出すために、熱心な信者である旦那さんの生態を観察するという女性のブログを読んでいたと書いた。そのブログのコメント欄には、同じように家族の活動に悩む人であったり、2世信者の人がその苦しみを書いて励まし合うコメントであふれるのだが、たまに熱烈な信者が「こんな批判を書くなんてひどい!」という趣旨のコメントを長文で書いてくる。ブログ管理人とコメント欄の常連VS熱心な信者という構図で何度かコメントのやりとりが続くのだが、熱心な信者がその正義を書けば書くほど、その人とその団体の歪さが露わになり、書いている本人がそのことに気づかずどんどんと団体の評判を下げていく。団体のおかしさを書くそのブログ自体よりも、「盲信した人が書く紋切り型の正義のコメント」を読むほうがかえっておかしさに気づけるという具合だった。
当時よく見かけたコメントの特徴を凝縮すると以下のような文章になる。
旦那さんに隠れてこんな悪口ばかり書いて最低ですね。コメントしてる人たちも愚痴って慰め合うだけで良いのですか?長年活動していますが皆さんが書いているような嫌な思いなんかしたことありません。疑問を感じるのは弱いからです。運命を変えられるのがこの信仰で、何があっても負けない知恵が満載。皆が一丸となって世界が平和になるよう活動してるのにケチつけないで下さい。救われた人が世界にどれだけいるか想像できないでしょう?嫌なら離婚すれば良いじゃないですか。旦那さんはそんなあなたの幸せも祈っているのに気づかないなんてかわいそうな人。
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今の感染対策に対する疑問をSNSに書いたら、山本さんへのコメントと酷似した長文の文章が送られてきたという人がいる。今の感染対策は絶対に正しいと思っている人の文章もまた、紋切り型で決まった特徴がある。
・とにかく感情が優先される
「人が亡くなっているのにさざ波だなんてひどい」
「家族がコロナで苦しむのは嫌だ」
「頑張ったからインフルも減ったんだ」
「自分勝手な主張して調和を乱さないで」
感染対策が必要だと思っているだけの人であったら、いろいろ過剰じゃない?と問うても「そういう考えもあるね」とか「たしかにこれが続くと他の問題が生まれるかもね」くらいの返答になっても良いのに、マスクの弊害を発信しただけで「この人は自分勝手だ!けしからん!」と時間を費やしてわざわざメッセージを送るのだから、感染対策が絶対に必要で正しいと「信じている」。信じているからこそ、少しでも否定されたように感じたら脊髄反射的にコメントしてしまう。山本さんのデータに対して感情で返し、感情に対してデータを返しても噛み合わない。
・いろんな問題がごちゃ混ぜになる
「子どもにマスクをさせるリスク」を主に発信し、「コロナ以外のことも考えませんか?」と問いかけている人に対して、ロックダウンといった世界の感染対策の正しさや医療従事者が大変な思いをしているといったことを主張しても議論のテーマがずれていく。
・相手が無知だと決めつけ上から物を言う
「数が少なくとも大切な人を失った人にとってはリアルな現実なのです」
(感染した人の苦しみや失った人の気持ちがあなたには想像できないでしょう)
「科学者、政治家は私たちとは比べられないくらいたくさん勉強をしています」
(感染対策が人類の叡智の結晶だということがあなたには想像できないでしょう)
皆我慢しているのに自分の権利ばかり主張して、現実がわかっていないようなので教えてあげましょうという姿勢を感じることは多い。
・正義のオブラートに包んで嫌味を言う
「嫌なら海外に行けばいい、政治家に立候補すればいい」
「リスクを不安に思いながらワクチン接種した人のおかげで、ワクチンを拒否した人の健康が守られるかもしれませんね」
コメントを書いた人は結局山本さんの文章がきちんと読めておらず、感情にまかせてこうしたことが言いたかっただけではないかと思ってしまう。
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もちろん、今の感染対策に疑問を感じている人でも「意図的にばらまかれたウイルスだ」と言って街中で火炎瓶を投げるところまで行ってしまうとそれもカルトだし、ネット上は過激な主張が目立ちやすい。対策が必要だと思っている人からしたら反自粛派は過激な人ばかり、陰謀論者ばかりで真面目に弊害を考えている人などいないように見えているのかもしれない。自粛の弊害がほとんど思い浮かばないのなら尚更だ。
街で暴動を起こすような、行き過ぎた反自粛がオウムのような過激なカルトだとしたら、いろいろ疑問はあるけどみんなやってるから従わないといけない、疑問の声すら上げにくいという今の雰囲気は「あからさまに過激ではない、生活に馴染んだカルト」と言えるのではないか。国民のほとんどが一つの考えに染まったという意味でやはり戦時中の生活とも似ている。
自分と違う意見をみかけた時に反射的にカッとなってしまうのなら、それは危険な兆候だ。
私は口が悪いので「このコメント主は戦時中に生まれてたら何の疑いもなくお国のためにと叫ぶんだろうなぁ」とか言ってしまうので、山本さんのような愛のある文章が書けるようになりたい。
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