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半匿名でいたい人たち


デートで食事をすると、口元を見られるのが恥ずかしくて、味を楽しめない。「ノーマスクだと下着なしで外出しているようで落ち着かない」と言う。


東区の女子学生(20)は「外で素顔をさらす勇気がない」と落ち込む。2カ月前、外食中に男性3人組の視線を感じた。パスタを口に運ぼうとマスクを外した瞬間、「あ、微妙」と意地悪な笑い声が聞こえた。「見ず知らずの人から否定され傷つくのが怖い。一生マスクでいいです」



マスクを外した瞬間に陰口が聞こえてきたら自分だったら相当落ち込む。二度と外食なんてしないと思う人もいるだろう。


他人の口をまじまじと見ることはないが、意外とその形状はグロテスクだ。口裂け女のように怪談に使われることもある。食べる場所でもあれば、吐き出す場所でもある。会話にも使うし、感情を表現するために無意識で使っているし、鼻が詰まれば呼吸することもできる。


長期間目にする機会が失われれば、「見てはいけない部位を見ているような感覚」、「卑猥な部位に感じる」ようになるかもしれない。口元を見られるのが恥ずかしいという感覚を持つ人は想像以上のスピードで増えているのかもしれない。

 

マスクをしている人は、その人がたしかに目の前にいるのにいないような感覚がする。ネットの中の匿名の人とやりとりするような感じがするのだ。マスクして人ごみの中にいるとなんとなく自分も匿名のうちの一人になったような、妙な安心感がある。


マスクをしていると、上司に怒鳴られてもしていない時よりダメージが浅く、他人事のように聞いていられるという経験を洋菓子工場のバイトでしたことがある。たかが布切れ一枚で人との間に大きな隔たりが生まれる。


理不尽な怒りをダイレクトに受けないようにするには良いのかもしれないが、常に一枚隔たりを作って人と接するということは、心を込めた叱責も励ましも100%受け取れないということ。


深く傷つかないよう、深く関わらないよう隔たりを作って接するよりも、100%さらけ出して時にぶつかるようなことがある人生の方が尊いと思う人は少なくなるんだろうか。

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